前兆無き瞬滅

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「――ということで、この宇宙は約88億年前に起きたビッグバンから収縮が始まったと考えられており・・」 ダーティーが講義を受けていると、トマシがひょこっと現れ、横の席に座った。 「出席とった?」 遅刻してきたトマシは出席だけ取りに来た典型的な単位目的だけの大学生。 「出欠終わったけど、トマシが来るかなって思って代返(だいへん)しといたよ」 「うわぁ、サンキュー。気が利くねぇ」 二人はマリンブルー州にあるニューゴッド大学に通っている。 二人が出会ったのは大学からだが、この大学に通う学生のほとんどがこの州の生まれで、彼らも例外ではなかった。 この宇宙総論の講義は、選択制の教養科目なのだが、単位が取りやすいからということで人気があった。 この講義を教えている教授もその辺を理解した上で授業を行っているようで、遅刻してきた学生を見ても見て見ぬふりをしているようだった。 だが、教授の気分で出欠の時間や方法を変えてきたりしており、真面目に講義に出ている学生達が馬鹿を見ないような最低限の気遣いはしているようだった。 講義を終えると二人は喫煙所に向かった。 「ねぇ、トマシ」 「ん?」 「セカンズビッグバンがもし今起きたら痛いかな?」 「うーん、それを俺に聞く?」 「トマシだから聞くんだよ。 トマシの直感は僕には無いものだから」 「痛くないんじゃね? だって確か光の速度を越えるんだろ? 考える前に消えちまうよ」 「やっぱりそう思うよね。ありがと」 「ちなみにダーティーはどう考えてたんだ?」 「ビッグバンはいわゆる表世界と裏世界の逆転から発生すると言われているよね。 裏世界は表世界で作られた見えない物質、すなわち裏物質によって形成されている。 つまり、僕達が五感で感じている事が見えない裏物質だったとしたら、僕らが消えても痛みは残るということになるなぁと思って」 「ふーん・・。やっぱ、ダーティーってぶっ飛んでるよなぁ」
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