前兆無き瞬滅

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トマシは煙草に火をつけ、最初の煙を吐き出した。 「だってさ、痛みを感じる身体が無いのに、痛みだけが残るって・・。 もう、どういうこっちゃ、って感じになるじゃん? でも、ダーティーは本気でそういう事を考えるから・・、何かすでに裏世界にいるんじゃないかなぁって・・。 なんちゃって」 「表世界にいながら裏世界にいる、か・・」 「いやいや、冗談だぜ? 考えない考えないっ」 「いや、面白いなぁと思って。 幽霊は裏物質が五感に直接刺激を与えることによって見えたり感じたりしている、と言われてるけど、いわゆる生霊というものがトマシのそれに当たるのかなって」 「お前に質問返ししたのが失敗だったよ」 トマシは苦笑いを浮かべながら煙草の火を消した。 「昼飯でも食いに行くか?」 「うん、そうだね」 二人は大学食堂に向かった。 昼休みということもあってズラリと人が並んでいた。 安いのにそこそこボリュームがあって、味も値段からしてみると結構旨い。 日常の食事をずっとここで食べ続けても不満ない人もいるだろう。 トマシはカツ丼定食、ダーティーは温泉玉子に白飯に味噌汁。 「ダーティーっていつもそれ食ってない?」 「うーん、単純に好きだからね。温玉とご飯と出汁醤油の組合せ。あと、金無いから。 でも、僕もカツ丼定食好きだよ」 「まあまあ、お前の家庭環境だったらしゃーないな。カツ丼定食も贅沢かもしれんな」 「アハハ、カツ丼定食が贅沢か。 やっぱり面白いね」 「いやいや、別に笑うとこでもないしっ。 プフっ・・、いや、ごめん。 なんか感覚がぶっ飛び過ぎてちょっと押さえられなかった」 「ちなみに今日の予定は?」 「えっ、今から?」 「ううん、夜」 「夜?夜は普通に家にいるけど・・、何で?」 「ああ、トマシと一晩過ごしたいなと思って」 「なるほど・・。いいよ」 ダーティーは午後の講義を終えると、一度家に帰った。 泊まりの場合は家のことを翌日分まで終わらせていなければならない。これは義務ではなく、共に生きる上での前提だった。 家事を終えた時には、肉体的には行きたくないのが本音だった。 だが、肉体の声を無視した時、トマシの住んでるアパートに向かっていた。 ダーティーはトマシの部屋の前に着くと、呼鈴を鳴らすことなく玄関のドアを開けた。 いつも部屋に居るときは鍵を開けっ放しなのを知っていたからだ。 「お邪魔するよ」
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