24章:恋味タルトポワール

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「今日はありがとう」 帰り道。 今日は一人ではなかった。 志賀原が送ってくれたのだ。おまけに恵梨の自転車まで引いてくれて。 空色からオレンジ色になりつつあるひかりの下を、2人で歩く。 なんだかくすぐったかったけれど、緊張したけれど、今まで感じていた緊張感とはまったく違うものだった。 なんとなく安心感もある、不思議な感覚。 気持ちも伝えた。 心に触れた。 片想いの『誰かを想う気持ち』とは少し違った、誰かを好きだという気持ちを知った。それをくれたのが志賀原で良かった、と思う。 「タルト、おいしかった」 話の途中で恵梨が言ったことには、志賀原は笑った。照れたように。 「篤巳の名前に『梨』が入ってるだろ。だから洋ナシのタルトにしたんだ」 「……そうだったんだ」 今までだったらどくりと心臓が跳ねていただろうに、今のものはそれよりずっと小さかった。なんだか落ち着きすら感じてしまう。 「名前について考えたからかな。作ってる間、思ってたんだけど。……その、名前で呼びたいな、とか」 ためらった様子を見せたけれど、志賀原は恵梨を見て言った。 恵梨の顔が、ふっと緩む。 自分の名前。 「私も、そう呼んでほしいよ」 「そうか。じゃ、……恵梨」 とくりと心臓が跳ねたけれど、それは嬉しさに。 自分の名前を呼ばれてこれほどあたたかい気持ちになったことは、今までない。 そして、自分の名前に入っている『梨』。 以前、梨花が教えてくれたことがあった。 『ねぇ、梨の花の花言葉って知ってる?』 ああ、あのとき梨花と食べたのも洋ナシのタルトだった。 なんだか運命的にも感じてしまう。 梨の花言葉は、『愛情』。 そして志賀原が、……裕斗が作ってくれた洋ナシのタルト、タルトポワールは、たっぷり入った彼の『愛情』の味だったのだ。
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