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24章:恋味タルトポワール
呼び鈴を押す手は流石に震えた。初めて家を訪ねたときとは比べ物にならないくらい。
今日はぽかぽかとあたたかい日だった。10月の頭、小春日和だ。
なので昨日とは違うミニスカートを選んで、でも昨日よりは短めのソックスを合わせた。
髪は志賀原の褒めてくれた、お団子ヘア。普段のツインテールより、ちょっと大人っぽい、と思う。
自転車で走るときから緊張していたけれど、空があんまり青かったのでそれにおおいに励まされた。空も太陽もぽかぽかとしていて、大丈夫だよ、言ってくれているようだったので。
「ああ、いらっしゃい」
「こんにちは」
思い切って呼び鈴を押すと、やっぱり志賀原は出迎えてくれて、そして笑ってくれた。
でもその笑顔がなんだか固い、と思ったので恵梨はちょっと不安になった。
なにか悪いことを……振られるとか……言われたらどうしよう、と思ってしまって。
ううん、そんなことを思っちゃダメ。
恵梨は自分に言い聞かせた。
志賀原だってきっと緊張しているのだ。だからきっと。
思いながら前回と同じように庭に自転車を停めさせてもらって、家の中へ招かれた。同じく洗面所を借りて手を洗って。
しかし通されたのはキッチンではなくリビングだった。
「今日、誰もいないからくつろいでくれ」
そう言われたけれど、かえって恵梨は緊張してしまった。
家に誰もいない?
なんだかマンガのようだった。そしてマンガの中では、そう、いろいろと恋人同士がするようなことを……。
考えただけで頭の中が煮えてしまって、恵梨は自分の思考を全力で否定した。
いやいやいや、そんなこと起こるはずがないから。
志賀原くんはそんなひとじゃないから。
大体、恋人同士でもなんでもないんだから。
そんなつもりじゃないだろうから。
自分だけが意識してしまっているようで、すでに緊張で死にそうになっている恵梨を置いて、志賀原は「ちょっと待っていてくれ」とキッチンへ行ってしまった。
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