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なんだろう、お茶でも出してくれるのかな。
どくん、どくんとうるさい心臓を抱えながら恵梨はそれを見送った。お客さんがきたのだから、お茶を出してくれるのはある意味当然かもしれない。
しかし、数分が経って戻ってきた志賀原が持ってきたのは、お茶だけではなかった。
大きなトレイ。そこに、大きなホールケーキが乗っていた。
多分タルトだ。茶色のタルト生地の上には薄い黄色のフルーツらしきものが綺麗に並べられていて、中央にはミントの葉が飾ってあった。
ケーキ?
しかもこんなすごいケーキ?
恵梨はぽかんとしてしまった。
それをリビングのテーブルの上に置いて、志賀原はソファの向かいの椅子に座った。
「お待たせ」
「ううん……これ、志賀原くんが作ったの?」
ここに持ってくる時点で当たり前のことだったかもしれないが、つい聞いてしまった。あまりにケーキが立派だったもので。
「ああ。……口に合うといいけど」
「すっごくおいしそうだよ!?」
「そうか。ありがと」
食べる前からそれがとてもおいしいのはわかっていたので、恵梨はつい勢い込んで言ってしまった。志賀原は嬉しそうに笑う。
そのあと志賀原は、ナイフでケーキを切り分けてくれた。立派なホールケーキを切ってしまうのはもったいない、と思うくらいケーキは綺麗だったのだが、切らなければ食べられないし、それに志賀原が作ったというこのとてもおいしそうなケーキを味わいたい気持ちのほうが強かった。
6等分して、ひときれを綺麗な花柄のケーキ皿に乗せてくれて、「どうぞ」と恵梨の前に置いてくれた。
「ありがとう」
次にひときれを同じ皿に乗せて、自分の前に置く。
「さぁ、どうぞ」
言われたので恵梨はごくりと息をのんだ。
添えられたフォークを手に取る。
「いただきます」
ケーキの先端を少し切り取り、おそるおそる口に運ぶ。
おいしいのはわかっていた。
けれど、好きなひとの手作りだ。
しかも多分、……自分のために作ってくれた、もの。
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