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「……すごくおいしい」
味わって、飲み込んで、恵梨は言った。
「これ、洋ナシだよね?サクサクしてるのにやわらかさもあって、甘すぎなくてタルトのクリームにすごく合ってる」
あまりにおいしくて、緊張していたのも一瞬忘れた。ケーキのおいしさを勢い込んで口に出してしまう。
しかし視線をあげたとき。
緊張は一気に復活した。
「ありがとな」と言ってくれた志賀原の目が、とても嬉しそうでそして優しかったから。
「喜んでもらえて、嬉しい」
お礼のあとに言った。
「実はコンポートを仕込んでたんだ」
「え、これ、洋ナシのコンポートから手作りだったの!?」
恵梨はびっくりしてしまう。てっきり缶詰だと思っていたし、ケーキを作るときにフルーツのコンポートなど作ったことはなかった。
作り方すら知らないくらいだ。砂糖で煮込む、くらいしか知識がない。
でも確かに、このタルトに乗っている洋ナシのコンポートは、缶詰にはありえない新鮮さとサクサク感がある。
しかしこれほど驚いたのに、そんな驚きはささいなことだった。さらに上のことを言われたのだ。
「篤巳の誕生日に作ろうと思って」
先程の比ではなく心臓が跳ねた。顔だけでなく体まで熱くなってくる。
そういえば、あと数日で誕生日だ。前に志賀原にも話していた。
だから誕生日の?ケーキ?
こんな、コンポートから手作りしてしまうような、スペシャルすぎるケーキを?
「でも誕生日を待ってたんじゃ、もう遅いってわかった」
志賀原がぽつりと言った意味はわからなかったけれど。
直後、恵梨はその言葉の意味だけではなくすべてを理解してしまう。
志賀原が家に呼んでくれた理由も、ケーキを作ってくれた理由も、そしてほかのことすらも。
視線をあげて、志賀原はまっすぐに恵梨を見つめてきた。
「篤巳が好きだ。ずっと前から」
一瞬、恵梨の心の中が空白になった。あまりの衝撃に。
しかしすぐに、じわじわと熱が生まれてくる。それはすぐに全身に回った。
一番熱いのは顔だったけれど。
頬が熱くて、どのくらい赤くなっているかもわからなかったけれど、それにかまっているどころではなかった。
どくん、どくんと心臓がはっきりと跳ねるけれど、それは喜びに。
そこでやっと恵梨は自分の中に生まれた嬉しいという気持ちを自覚した。
こんなこと、夢ではないだろうかとまで思ったのだが、夢ではなかった。
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