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「だから、その、……一昨日、篤巳に言われたろ。そのときオレ、心底後悔した。もっと早く言うべきだったって。篤巳がどんなつもりで言ったかはわからないけど、少なくとも『好きだ』って言葉は先に言いたかったって」
志賀原から言われてしまった。
あのとき自分が言ったこと。
思い出して違う意味で恥ずかしくなったけれど、それを何倍も上回るくらいに嬉しかった。志賀原の言ってくれたことのすべてが。
ごくりと恵梨は唾を飲み込んだ。喉は急速に渇いたようにからからになっていたけれど。
今、言わなくてはいけない。
今まで積み上げてきた勇気。
使うときが目の前にある。
「わ、……私も」
言う声はかすれてしまった。
けれど、震える喉を叱咤して続ける。
「志賀原くんと同じ意味で、言ったよ。……好き、だって」
恥ずかしさに目をそらしたくなりながらも、見つめたままで言った。
見つめる先の志賀原の頬も、はっきり赤に染まっていた。きっとそれは、恵梨と同じ気持ちを抱いてくれているから。今まで見てきた表情の中で一番近しいものだ、と思った。
「……ありがとう」
そのとき初めて、恵梨は知った。
誰かの心に触れること。
それは体に触れるのとはまるで違う。
体に触れるよりも熱く、心を満たしてくれること。
「オレと付き合ってくれるか?」
心に触れたと感じたことで、奇妙に緊張は落ち着いていた。
恵梨はただ「はい」と答える。
それだけでもう、じゅうぶんだった。
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