24章:恋味タルトポワール

4/5
前へ
/147ページ
次へ
「だから、その、……一昨日、篤巳に言われたろ。そのときオレ、心底後悔した。もっと早く言うべきだったって。篤巳がどんなつもりで言ったかはわからないけど、少なくとも『好きだ』って言葉は先に言いたかったって」 志賀原から言われてしまった。 あのとき自分が言ったこと。 思い出して違う意味で恥ずかしくなったけれど、それを何倍も上回るくらいに嬉しかった。志賀原の言ってくれたことのすべてが。 ごくりと恵梨は唾を飲み込んだ。喉は急速に渇いたようにからからになっていたけれど。 今、言わなくてはいけない。 今まで積み上げてきた勇気。 使うときが目の前にある。 「わ、……私も」 言う声はかすれてしまった。 けれど、震える喉を叱咤して続ける。 「志賀原くんと同じ意味で、言ったよ。……好き、だって」 恥ずかしさに目をそらしたくなりながらも、見つめたままで言った。 見つめる先の志賀原の頬も、はっきり赤に染まっていた。きっとそれは、恵梨と同じ気持ちを抱いてくれているから。今まで見てきた表情の中で一番近しいものだ、と思った。 「……ありがとう」 そのとき初めて、恵梨は知った。 誰かの心に触れること。 それは体に触れるのとはまるで違う。 体に触れるよりも熱く、心を満たしてくれること。 「オレと付き合ってくれるか?」 心に触れたと感じたことで、奇妙に緊張は落ち着いていた。 恵梨はただ「はい」と答える。 それだけでもう、じゅうぶんだった。
/147ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加