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「今日はありがとう」
帰り道。
今日は一人ではなかった。
志賀原が送ってくれたのだ。おまけに恵梨の自転車まで引いてくれて。
空色からオレンジ色になりつつあるひかりの下を、2人で歩く。
なんだかくすぐったかったけれど、緊張したけれど、今まで感じていた緊張感とはまったく違うものだった。
なんとなく安心感もある、不思議な感覚。
気持ちも伝えた。
心に触れた。
片想いの『誰かを想う気持ち』とは少し違った、誰かを好きだという気持ちを知った。それをくれたのが志賀原で良かった、と思う。
「タルト、おいしかった」
話の途中で恵梨が言ったことには、志賀原は笑った。照れたように。
「篤巳の名前に『梨』が入ってるだろ。だから洋ナシのタルトにしたんだ」
「……そうだったんだ」
今までだったらどくりと心臓が跳ねていただろうに、今のものはそれよりずっと小さかった。なんだか落ち着きすら感じてしまう。
「名前について考えたからかな。作ってる間、思ってたんだけど。……その、名前で呼びたいな、とか」
ためらった様子を見せたけれど、志賀原は恵梨を見て言った。
恵梨の顔が、ふっと緩む。
自分の名前。
「私も、そう呼んでほしいよ」
「そうか。じゃ、……恵梨」
とくりと心臓が跳ねたけれど、それは嬉しさに。
自分の名前を呼ばれてこれほどあたたかい気持ちになったことは、今までない。
そして、自分の名前に入っている『梨』。
以前、梨花が教えてくれたことがあった。
『ねぇ、梨の花の花言葉って知ってる?』
ああ、あのとき梨花と食べたのも洋ナシのタルトだった。
なんだか運命的にも感じてしまう。
梨の花言葉は、『愛情』。
そして志賀原が、……裕斗が作ってくれた洋ナシのタルト、タルトポワールは、たっぷり入った彼の『愛情』の味だったのだ。
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