1.出会い

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「痛ぁ…」 見知らぬ男子に急にぶつかられて、危うくまともに転ぶところだった。 今週末は試合だと言うのに、こんなところでケガをしては大変だ。 (もう、危ないなあ…) 亜麻野茉莉(あまの まつり)は顔を上げた。 視線に飛び込んできたのは、驚く程の色気を持つ、美男子。 (うわ、すごいイケメン!!) 深雪の見た目に一瞬完全に気をとられたが、すぐに我に返る。 「危ないなあ!こんなところでダッシュなんかしたらダメじゃん!」 女子からキャーキャー言われる事はあっても、まともに怒鳴られる事など深雪には経験が無かった。 完全に面食らったが、それでも自分が悪いのは確かな事なので彼は素直に詫びる事にする。 「ごめん、ホントに…どっか打ったりしてない?大丈夫?」 かなりの衝撃だったはずだった。 深雪は無意識にギュっと腕を回し、見知らぬ女子を完全に抱きしめる形になっていた。 そっと力を抜いて、彼女の様子を見る。 「大丈夫、でもホントに気をつけなよ。普通の女の子ならすっとんじゃうよ」 ショートカットのその子は毅然としてそう言い、深雪から離れた。 女子にしては背が高い。部活に行くのだろう、Tシャツと半パンのジャージ姿だった。 深雪も彼女を掴んでいた手を完全に離した。 「うん…ホントにごめん。あ……あれ?」 「どうしたの?そっちこそ、大丈夫?どこか当たった?」 更に身長のある深雪を、彼女は心配そうな顔で覗きこんでくる。 「大丈夫だけど…、君、何か香水とかつけてる?」 「え?つけてないけど」 茉莉はきょとんとしている。 「そう?何かこの辺の匂いかな、すごいいい匂いする。分かんない?」 深雪の言葉に、茉莉は周りを見渡して首をかしげた。 「別に何も…?香水みたいな匂いがするのは、あなたじゃないの?」 深雪に抱きとめられた時、確かに良い匂いがした。 それは男性用の制汗剤みたいな匂いで、男の爽やかな香りだった。 (イケメンは、匂いまで良いんだなあ…) 茉莉は関心したが、ここで時間を取っている暇は無い事を思い出す。自分も急いでいたのだ。 「じゃあ、私急ぐから!」 「あ…。ホントにごめんな」 「気にしないで!大丈夫だから!そっちこそ気をつけてね!」 日焼けした顔に、白い歯を見せて茉莉は去った。
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