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「父さんは……母さんを愛していましたか?」  やっと顔を上げた父は、不愉快そうに顔を顰め天野を見つめる。 「母さんは死ぬ時まで、傍にいもしない貴方を思っていました。どうなんですか?」  もしも、愛していたと父が言ったのならば泰子を島に送った後に、天野はこっちに戻って父の言いなりに幾らでもなろうと思っていた。  仮にも父親である事は変えようがないうえ、全く恩がないわけではない。だからこそ、長男の自分が全てを背負う覚悟があった。 「くだらないな。愛だの恋だのそんなもの、今の時代には必要ない。取り残されないように、如何(いか)に立ち回っていくかに掛かっているんだ。お前もそんな物に囚われているようでは、いつか足元を掬われるだけだ」  父は話は終わりだとばかりに再び視線を下に向け、資料に目を落とす。 「そうですか……分かりました」  天野はそれだけ言うと部屋を後にする。心は今までにはないほどに、冷え切っていた。少しでも情を感じた自分が馬鹿だったのだ。  憤りと失望感に天野は愕然とした心持ちで屋敷を出ると、高松家へと直談判しに向かった。父を止められないのであれば、自分の命に変えても期間を先延ばしてもらうつもりだ。  天野が見た夢は高松家に着き、達郎と対峙した時の記憶の一部。そこから数ヶ月間にも渡る悪夢の始まりだった。
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