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 腰まで迫りくる水の冷たさに、天野はハッと我に返る。  睡蓮の花が、まるで天野を避けるかのように脇に退けていた。水に濡れる学生服と足取りが重たく、なかなか前に進めない。  達久の残酷非道な行いを思い出し、水による冷たさなのかそれとも恐怖から湧き上がる寒気なのか分からなくなっていた。  まだ到るところに傷が残っているかのような痛みが全身を駆け巡り、必死で泥濘んだ池に身を進めていく。初夏にも関わらず全身に悪寒が襲いかかった。額からは冷たい汗が流れ、目から止め処なく涙が流れ落ちていく。  思い出したくないのに一度取り戻した記憶は留まること無く、脳裏で再生を繰り返す。目を閉じていても、止まる事のない記憶の回顧に天野は絶望感に打ちひしがれた。  達久に腕を拘束され、全身を鞭で打たれていく。拒む間もなく背後から犯され、鋭い痛みは快楽など程遠い。噛み跡や蚯蚓腫(みみずば)れが全身のいたる箇所に付き、周囲に隠すのにも苦労を強いられるほどだった。 『貴様は(みだ)りがましいな。こんな事をされて喜んでいるなんて』  達久は侮蔑の言葉を投げながらも、その目は興奮の色に染まっていた。泰子がこの男の餌食にならずに済んで良かったのだ。天野はそう自分を励ましつつ、達久の言うと通りに演じ続けた。
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