夢逢人

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夢の中で見せる愛しい人との儚い記憶の断片が私に語り掛けてくる。私達は決して離れたくなんてなかった。でもどんな理由かは分からないが離れなければいけない状況に追いやられ……離れなければならなくなった。溢れ出す涙は切なさとやりきれなさで満たされていた。『どうか…どうか…神様って言ったのに。彼を私の許に返してください。お願いします!……どうか…。』溢れる想いは必死で月明かりに呼びかけていた。あの時、どうしても離れたくなくて強く握りしめ合った2人の手には強い意志が詰まっていた。どうしても離してくない。決して離してはいけない手。この手を放してしまったらもう2度と彼に逢えないように感じた。荒い息遣いと共に私は飛び起きた。頬には乾ききらない涙の跡と今まで感じたことのない喪失感。『彼はどこ?彼を探さなくちゃ。』掻き立てられる衝動に居ても立っても居られない。『………………。あれ……。彼って一体誰だっけ?誰をどこを探したらいいの?』とやりきれない悔しさが胸を締め付ける。『ああああっ……。今すぐ彼を探さなきゃ。彼を助けなきゃ。……彼を。』と自分の無力感に絶望しながら何もできない自分に苛立つ。『落ち着け。落ち着け。私。大丈夫。大丈夫だからよく思い出して。落ち着いて。』苛立つ気持ちを宥め私は彼との記憶の紐を解いていった。彼に繋がる手掛かりは一体何?必死で思い出す。朧げに映し出されるどこかの景色。『ここは?』薄暗くてぼやけていてよく見えない。何かが光っている。『何?何が光っているの?水辺?』次第にはっきりとしてくる記憶。夜空に眩しいほど光り輝く月明り。そこには一面に広がる湖があり月明かりが優しく包み込んでいた。湖の周りには睡蓮の花が一面に咲き誇り幻想的な光景は忘れかけた懐かしさを思い出させた。
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