1.空よりの使者

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1.空よりの使者

「あぁ、どうして……」  テラスで一人星空を見上げ、一国の姫が嘆きの声をあげていた。 「どうして争わなければならないのでしょうか……」  現在、このジエール王国は隣国と一触即発の事態に陥っている。  国境沿いでは、すでに小競り合いが頻発しているとの報せも姫の耳に届いていた。  いつ本格的に、開戦の火蓋が切って落とされるやもしれない状況。  荒波に弄ばれる小舟のように、姫の心は揺さぶられていた。 「あぁ――」  姫の嘆きは止まらない。  いっそのこと、全て壊れてしまえばいいのに。  星が落ちて、争いごとなくなってしまえば楽になれるだろうか。  きらりと、夜空に流星を見つけた姫の脳裡に、破滅的な思考が過る。  しかし、そんなデタラメな考えはすぐに消える。  いまも国のために働いてくれている人々が大勢いるのだ。  一国の姫として国民を蔑ろにするような、あるまじき考えである。  そう、いまのはただの気の迷いだ。  一国の姫としてではなく、一人の少女としての。 「え――?」  そのとき、ふと姫は首を傾げた。  一つの星の光が、やけに大きく見えたのである。  いや、気のせいではない。  光は徐々に大きくなっていき、やがて姫の視界を覆い尽くし―― 「きゃああああ――――!!?」  爆裂した。 「な、なな……!?」  はしたなくドレスの裾を広げて尻餅をつき、わけのわからない現象に姫は慄いた。  轟音がしたはずだが、怪我はない。  後ろの方からは、騒ぎを聞きつけた侍女や見張りの兵士らが部屋に雪崩れ込んで来る気配がする。 「――あてて、ちぃっと失敗したか」  やがて、もうもうと立ち込める白い煙の奥から、むくりと影が起き上がった。  そこに姫が見たのは、黒いとんがり帽子に黒マント。  透き通るような白い髪と金色の眼をもった子供の姿だった。
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