296人が本棚に入れています
本棚に追加
/60ページ
「ふふふ……これが今まさに私の魔王城に攻め込んでいる噂の勇者か。なかなか面白そうじゃない。今まで挑んできた雑魚とは違い楽しめそうだわ」
昼間であるというのに光1つ差し込まぬ魔王城、玉座の間。
そこで玉座に座り妖艶な笑みを浮かべるのはこの城の主、魔王。
禍々しいまでの赤く長い髪に男ならば誰しもが虜になるプロポーションを持つ絶世の美女。
されど、勇者との出会いを待ちわび、浮かべる表情は魔王のそれ。
常人であればそれだけで死を直観するほどのもの。
そんな超越者たる魔王の下に近づいてくるのは勇者。
何百年と続く宿命の戦いだ。
「さあ、すぐそこにまで来ているのは分かっているのよ。入ってきなさい」
「…………」
玉座の間へと続く扉の前で、男が悩む気配が伝わってくる。
恐らくは罠の可能性を疑っているのだろう。
しかし、それもすぐに終わり、ゆっくりと巨大な扉が開かれる。
それと同時に魔王も立ち上がり、勇者を迎え入れる。
「よくぞここまで来ることが出来たわね、勇者…て、え……?」
魔王はここに勇者が来るまでに考えておいたセリフを、途中まで言ったところで固まる。
何故か? それは勇者の姿が想像の範囲外のものだったからだ。
噂のようにその強さは本物らしく、男の体にはかすり傷一つない。
強い意志を持った瞳はその魂の清廉さを如実に表している。
そして、超越者である魔王ですら美しいと思ってしまう、美貌と体つきをしていた。
だが、そこまでは驚くことではない。では、何が魔王から言葉を奪ったのか。
それは―――
「魔王城城主、ルシフェリア殿とお見受けする。
人と魔族、長きにわたる因縁を今ここに終わらせる!」
「なんで鎧どころか服すら着てないのよ、あなたは!?」
「服など無粋、真の勇者は全裸で戦う!」
「いいから服着なさいよ、この変態っ!!」
―――勇者が全裸だったからである。
最初のコメントを投稿しよう!