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三年生を見送った校舎は、酷く静かで、いつもの廊下も心なしか長く感じる。
憧れの先輩がいたわけじゃないし、仲が良かった先輩がいた訳ではないけど、静かになった校舎を歩くと、少し寂しく感じた。
春の心地よい風に髪を撫でられ、私は美術室の前で足を止めた。
いつもの部活の景色同様、中谷先生が窓際に座り、物理の本を握っていた。
いつもと違うことは、先生が窓の外を眺めながら涙を流していた事。
高校一年の私にとって、大人の男性が泣く姿を見るのは初めてだった。
校庭から聞こえる声。
ゆっくりと揺れるカーテン。
先生の無造作ヘアも、カーテンと一緒に揺れる。
一枚の絵の様にここだけ切り取られた空間で、先生の頬を涙が流れた。
それは、桜が散るさまの様に美しく、私は動く事も声をかけることも出来ず、ただ立ち尽くしていた。
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