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「茜、遅いよ~。後、30分しかないよ」
「あはは、ごめんごめん」
友達と合流したのは、2時間のカラオケが1時間半たってからだった。
私は、手を合わせて謝ると、入り口近くの席に座り、ジンジャーエールを注文して一息ついた。
結局、部室に忘れていた筆箱は、取れずじまい。
暫く、先生に見惚れていた私は、階段を上ってくる声に我に返り、その場から逃げるように走り去った。
今まで見た事がない先生の姿を見て、酷く胸がざわついた。
先生は、なんで泣いていたの?
何を見ていたの?
何度も押し寄せる疑問と、動悸を誤魔化す様に私は必至で走った。
美術室から誰か出てきた気配はしたけど、私は振り返る事が出来なかった。
下駄箱に到着した時、酷く動悸がしたのは、全力で駆け抜けたからか……
先生の涙を見たからなのか――
私には、分からなかった。
「男の人って、静かに泣くんだ」
「え?」
「ううん、なんでもない!!」
ただ、乾いた喉にジンジャーエールが染み渡る様に、私の心に中谷先生の涙が沁みたのを感じた。
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