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ハゲ『全人類の髪《かみ》を滅ぼし、真の平等を実現する』
男はハゲだった。
別に悪事を働いたわけでもなく、不摂生な生活を送っていたわけもない。
だというのに男はハゲだった。
『ねえ、ハゲ。どうしてあなたはハゲなの?』と問われても知るかとしか答えられない。
ハゲに罪はないというのに『このハゲー!』と罵倒される毎日。
何故自分がこのような目に遭わねばならぬのだとハゲは世界を呪った。
そもそも人の遺伝子は必ず禿げるように作られているのだ。
ハゲでない人間は所詮、禿げる前に寿命が訪れているに過ぎない。
そうだ。本来ハゲとハゲでない人間に違いなどないのだ。
だというのに、人間は愚かにも自らの優位性を示すために持たざる者を見下す。
いずれは皆同じ存在になるというにも関わらずにだ。
おかしい。これは絶対に許されるべきことではない。
故に男は激怒した。
天は人の上に人を作らず。神は全てを平等に作ったはずだ。
ハゲが差別されることなど本来ならばあってはならない。
差別は排除しなければならない。世界は平等であるべきだ。
だが、いつの世も平等を叫ぶ者は力によって弾圧されてきた。
それに抗うには力が必要だ。しかし、たった1人の髪すら失った男に何ができると言うのか。
己の力の無さと髪の無さに打ちひしがれる男。天へと慟哭の声を上げるが意味などない。
男はただのハゲとして人々に蔑まれたまま、無念を抱きながら人生に終わりを告げた。
はずだった。
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