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―――力が欲しいか?
男の前へと神を名乗る者が現れた。
神は混乱する男に自身の依頼を受けてくれるならば、力を与えて異世界へと転生させてやると伝えた。もちろん男は不思議に思い理由を尋ねる。何故自分なのかと?
神はその質問に答えることはせず、ただ頭に被る帽子を取ってみせた。
それだけで男は全てを理解する。何故ならばそこに在るはずの頭髪が。
―――1本たりとも生えていなかったからである。
そう、神もまたハゲだったのだ。始めはその事実に驚いていた男であったがすぐに納得を見せる。何故ならば聖書にも記されていたある話を思い出したからである。
ある所に1人のハゲが居た。それを見かけた子ども達は口々に『このハゲー!』と罵った。
普通であればハゲが泣き寝入りして話は終わりだっただろう。
しかし、神はこの悪逆を見逃さなかった。子ども達をクマに食らわせハゲを守ったのである。
この話は普通の人から見ればやり過ぎのようにも見えるが、ハゲからすれば妥当な行為だ。そして何より、神がこうも怒りを露わにしたのも、神もまたハゲだったからだとすれば辻褄が合う。神はハゲ故に同じハゲが罵倒されるのが許せぬのだ。
皮肉なものである。神は髪を持つ人間に微笑むことはせず、髪を失った人間に微笑むのだ。
全てを察した男は感涙の涙を流しながら神託を受けると告げた。
神もまた今までの同類の苦しみを理解するように涙を流した。
2人の頭皮よりもなお輝く涙が地面に流れ落ちる。
それは全世界、全宇宙のハゲの痛みと苦しみを流すための雨となるだろう。
神が髪を失ったハゲに使命を与える時、全人類は生まれ変わる。
その輝かしい未来を掴むための神託が今、下される。
―――神は言っている。全人類の髪を滅ぼし、真の平等を実現しろと。
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