5人が本棚に入れています
本棚に追加
そんな美味い話、ある訳が無いし自分の絵では一円にもならん…。彼が再び頭を抱えて机に突っ伏していると、母が部屋にやってきた。
「しばらく…休んだら?」
ガロの母の、優しいような、しかし冷たいような声が聞こえて、ガロは顔を上げた。
「母ちゃん…僕は…どうしたらいいんだ?」
「まあ、まず清掃の仕事をやめて二日もしてないでしょう?少し間をおいても…。」
ガロも、出来ればそうしたかった。しかし、他の人間が学校やら仕事やらに出ている間、家にいるのはとてつもなく罪悪感と劣等感を感じる、ということがイメージ出来た。なので
「…いや、出来ない。それは…。」
すると母親はこう言った。
「…一度病院に行く?…精神科の…。」
…これを聞いてガロはショックを覚えた。家族が、ついに自分を精神障害ではないか、と疑い始めた。しかしその通りかもしれなかったが…今まで自分では思ってもみなかったことを言われ、ガロは黙りこくった。
しばらくすると、母親は呆れたように部屋を出て行った。残ったガロの頭の中には、追い詰められ、空回りした思考から導き出された、無謀な、命知らずな、不安定な答えが浮かび上がってきていた。
「もうこの家にはいるべきではないんだ…。家を出よう、そしてどこか遠くで…死のう。」
あまりに急だったが…しかし何故か、もうそれでいいように思えた。自分の人生を、冷たい水の中にぶん投げたって…誰も悲しみはしないだろう。
何を持っていこう?いつ出よう?どうやって死に場所まで行こう?考え出せばキリが無い…。ここで『明日からまた気楽に、短時間の仕事でもいいから始めよう』とでも考えられれば救われたかもしれない。しかしガロはそんな気持ちにはなれなかった。
さっきの三つの自問はすぐに消え失せた。ガロは何も持っていかないことにした。出発は、全員が眠った後の、夜中にしよう…。どうやって死に場所まで行くか…?…徒歩でいいだろう…。
そうやって、一応続いていたガロの毎日の中で、たまたま今日が全てを捨てる日に選ばれてしまった。
別のやり方があるだろう。こんなことしても無意味だろう。ガロは少しの間はそう思った…。だが、もう止めることはしたくなかった。誰彼も…家族でさえも、敵だったように思えたから。
最初のコメントを投稿しよう!