優しい嘘/悲しい嘘

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 雄貴は緊張した面持ちで座っていた。  午後の喫茶店は人もまばらだった。  運ばれてきたコーヒーに口をつけることもせず、雄貴はじっと手元を見つめる。  隣に座った女が、そっと雄貴の腕に触れた。そうすると、強張りが解けていくような気がして、大きく息を吐いた。 「雄貴、大丈夫?」  女が心配そうに言うので、雄貴は少し微笑んでみせた。 「大丈夫だ。ありがとう、公香」  そうだ、相手が来る前から怖じ気づいてどうする。  コーヒーに手を伸ばしかけたとき、来客を告げる、軽やかなベルの音が店内に鳴り響いた。 「……来たみたい」  公香が呟く。  雄貴が視線を巡らすと、待ち合わせをしていた人物が、控えめなヒールの音を鳴らしてこちらに歩いてくるのが見えた。  やって来た女はちらっと座席を一瞥すると、雄貴の向かい側に座る。 「お待たせしてしまったかしら?」  雄貴の妻――理絵が、にっこりと笑った。
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