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理絵の注文した紅茶が運ばれてきたタイミングで、雄貴は話を切り出した。
「理絵、こちらは伊藤公香さん。……会社の、後輩で……俺たちは……」
雄貴が言いよどむと、公香がハッキリと言った。
「あたし、雄貴さんとお付き合いしてるんです」
公香は強い眼差しで理絵を見た。睨みつけた、といった方が正しい。
理絵は冷静だった。
「そう。……雄貴、あなたが……浮気してること、わたし前から気づいてたわ」
「……そうか」
「ええ……あなた、嘘が下手だもの。それで? 今日はどういう話し合いなのかしら? わたしと別れて、そちらの……伊藤さん? と、一緒になりたいって、そういう話?」
「あたし、妊娠してるんです。雄貴さんの子です」
公香が勝ち誇ったように言いながら、下腹部をなでる。
理絵はティーカップにかけた指先を、わずかに震わせた。
静かにカップを置くと、雄貴の目を真っ直ぐ見つめる。
「……本当なの?」
「……ああ」
「そう……」
理絵はゆっくりと口元を手で覆った。動揺を隠そうとしているようにも見えた。
肩が微かに震えていたので、雄貴は理絵が泣き出すのではないかと思った。
理絵にとって、これがもっとも残酷な裏切り行為であることを、雄貴は重々承知していた。
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