優しい嘘/悲しい嘘

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◆  雄貴と理絵は、決して仲の悪い夫婦ではなかった。  大学生のときからの付き合いで、七年前に結婚した。共働きで、大きなケンカをすることもなく生活していた。  公香に言ったように、セックスレスだったわけでもない。  ただ子供が出来なかった。  結婚して一年経った頃に初めて妊娠したのだが、流産してしまった。  それからというもの、なかなか子供が出来ずにいた。  雄貴はよく理絵に 「子供なんて、無理に作るものでもないさ」  などと言っていたが、それは妻を気遣っての嘘だった。  本当は今すぐにでも子供が欲しかった。  理絵は不妊治療をしたがっていたが、雄貴はそういうものはなんだか不自然な感じがして嫌だった。  もちろん口にしたことはない。  現在、不妊治療をする夫婦は少なくないこともわかっている。しかし、どうしても嫌悪感は拭えなかった。  公香と不倫関係に陥る前から、雄貴には一つの懸念があった。  妻のことは愛しているが、このままでは自分も妻も幸せにはなれないのではないか……ということだった。  ふたりとも三十三で、これからどんどん妊娠出産のリスクは上がっていく。  もしかしたら、自分たちは子供を作るには相性が悪いのかもしれない。  手遅れになる前に別れた方がいいのではないか――そう考えていた。
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