153人が本棚に入れています
本棚に追加
◆
雄貴と理絵は、決して仲の悪い夫婦ではなかった。
大学生のときからの付き合いで、七年前に結婚した。共働きで、大きなケンカをすることもなく生活していた。
公香に言ったように、セックスレスだったわけでもない。
ただ子供が出来なかった。
結婚して一年経った頃に初めて妊娠したのだが、流産してしまった。
それからというもの、なかなか子供が出来ずにいた。
雄貴はよく理絵に
「子供なんて、無理に作るものでもないさ」
などと言っていたが、それは妻を気遣っての嘘だった。
本当は今すぐにでも子供が欲しかった。
理絵は不妊治療をしたがっていたが、雄貴はそういうものはなんだか不自然な感じがして嫌だった。
もちろん口にしたことはない。
現在、不妊治療をする夫婦は少なくないこともわかっている。しかし、どうしても嫌悪感は拭えなかった。
公香と不倫関係に陥る前から、雄貴には一つの懸念があった。
妻のことは愛しているが、このままでは自分も妻も幸せにはなれないのではないか……ということだった。
ふたりとも三十三で、これからどんどん妊娠出産のリスクは上がっていく。
もしかしたら、自分たちは子供を作るには相性が悪いのかもしれない。
手遅れになる前に別れた方がいいのではないか――そう考えていた。
最初のコメントを投稿しよう!