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◆
数週間後、あっさりと離婚が成立した。
両親には、理絵の希望で『性格の不一致で離婚した』と伝えた。
雄貴は理絵に、こちらが全面的に悪いのだからと、できる限りの金銭を渡した。
公香は何か言いたげにしていたが、ごねられるよりマシと思ったのか、口を噤んでいた。
それからひと月ほど開けて、雄貴と公香は婚姻届を提出した。
その報告をするために、ふたりは理絵をファミレスに呼び出した。理絵の方から、『婚姻届を出したら知らせてほしい』と言っていたのだ。
「きみとの約束通り、彼女と正式に結婚したよ」
雄貴が告げると、理絵は「そう」と気のない返事をした。
「よかった。おめでとう……って、わたしが言うのもおかしいわね」
理絵が笑う。
つられて愛想笑いをしかけたが、やめた。
理絵は微笑したまま、公香を見た。
「少しお腹が目立ってきたんじゃないですか? 何ヶ月?」
「六ヶ月です」
「そう。無事に産まれることを願ってるわ。……子供には何の罪もないものね」
女たちは微笑み合った。
雄貴は居心地が悪かった。
理絵は公香から視線を外して、雄貴を見つめた。
「……最後に、ちょっとだけ言わせてね。……わたしは、あなたとの子供が欲しかったけれど、あなたはわたしとの子供じゃなくてもよかったのね」
理絵が呟いた言葉が、雄貴の胸にチクリと刺さった。
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