序章

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序章

 気がつくと、両手の指がゆるやかに曲がっている。  それは、あの人の顔の形。  いまは地上にいないあの人の。  たとえば身体中の神経を、縦に半分に割かれたら、どんな感じがするだろう。  私たちのあいだにおこったことは、そういうこと。  あの夜、私は目覚め、導かれ、そして失った。    あの人につながれていた私の磁気は断ち切られ、私は私でなくなってしまった。  ときどき、一瞬だけ、ものがはっきり見えることがある。  人間だったときの記憶がほんの少し……  ほとんどは、あの夜のこと。  重く横たわる悲しみ。  そして……憎しみ。
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