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二メートルを容易く超えているであろう体躯。ゆったりではあるが、その動きは何処にも隙がなく、何よりも恐ろしいという感情が前に出てきて、足が竦む。
虎だった。
しかも巨大な、白地に黒い模様の入った、虎である。
あれが、何故こんなところにいるのか。説明しようと思えば、説明出来る。
この学校には入学条件にいわくつきのものが、一つある。
紅には、そのいわくつきに当てはまる条件が、一つだけあって、幼い頃の記憶ではあるが、そこに間違いはなかった。―――もう、とっくに忘れていたことでは、あったが。
あの虎だって、きっと理由の一端なのだと、そんな結論に至っても可笑しくはない。
それでも、好奇心からか。
それとも本能的な何かが行けと告げたのか。
行かなければ行けない、そんな気がしたから。
宛にもならない途方もない予感で、紅は森まで迷い込んで、ようやく当初の目的を見つけることが出来た。
無造作に立ち並ぶ杉の木の陰に隠れて、森の中で、ふと足を止めた虎をじっくりと観察する。よく見れば、あの虎は今、大きな梅の木の根元で首を仰いでは、なにかの匂いを嗅いでいた。
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