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私は人通りの少ない道を歩いていた。
辺りには誰もいない。
私はプールに向かっていた。
私が卒業した高校のプールだった。
私はかつて友達と一緒によじ登った金網を今夜は一人でよじ登る。
そしてかつて、友達と競いあった広い校庭を一人、横切った。
月の光で校庭に薄い影ができた。
校庭には髪が乱れ、醜く太った女の姿が映っていた。
昔、まだ私がこの高校の制服に身を包んでいた頃、この校庭に映った私の影は、髪が短くすらりとしていて、生き生きとしていた。
私は自分の影から目をそらすと、先を急いだ。
東の空が明るくなる前にここから出なければならない。
私は足を速めると、校庭のすみにあるプールへと向かった。
プールの鍵を何とかこじ開けたときには、すでに夜明けは間近に迫っていた。
プールは相変わらずきれいだった。
数年前と変わらず、見る人を魅了する水面だ。
今夜、その水面には大きな満月が映っている。
ふと、数年前のことを思い出した。
私が水泳という名のスポーツをやめた日のことだ。
その日のことは、まるで昨日のことのように鮮明な記憶となって残っている。
県の大会で負けた。
たったそれだけのことだったが、何故か私の心に深く突き刺さった。
すぐに癒えると思い、放置していた心の傷はそれから何日がたっても癒えることはなかった。
もともとメンタルの弱い方だった。
その傷は何年もかけてじわじわ腐っていき、今になって傷口から漏れ出している。
そして、それが今夜のこの計画を導いたのだ。
不意に奇妙な臭いを嗅いだ。
肉が腐ったような臭いだった。
しかし、私は全く気に止めなかった。
私は辺りを見回すと、いままで隠し持っていた紙袋をプールサイドに置いた。
ずっしりと思いを紙袋を手放した私は、伸びをしてため息をつく。
私はもう一度紙袋の位置を確認すると、走って学校を後にした。
帰り道、私は清々しい気持ちで川沿いを歩いた。
私の心にはついにやり遂げたという、達成感しかなかった。
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