厘という少女

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明晰夢(ルシッドメア)や、他の『府民』に殺された人。3年の期限が切れて、溶けるように消滅した人。殺伐とした世界に耐え切れず、自殺した人。……私たち、一度は死んだ人間なのに、どうしてもう一度死ななきゃならないのかな?殺し合わなきゃならないのかな?」  ふいに、大粒の涙が彼女の目から溢れだした。嗚咽をこらえながら、力の限り歯を食いしばる。  京には、かけるべき言葉が見つからなかった。  この少女の力になりたい。例え、自分がこの子よりも弱かったとしても。歩み寄って、苦悩をやわらげたい。  ーー人と関わることを恐れず、いろんな人に歩み寄りなさい。  姉が残した、最後の言葉。今こそ、それを実行するときではないか。 「……厘」  少女の名を、呼ぶ。 「俺はまだ、この世界のことはよく分かってないけど……みんな、生きることに必死なんじゃないかな。一度死んだからこそ、生きることの意味を、価値を、何よりも知ってるんだと思う」  こんなものは詭弁だ。自分だって、命を粗末にしたくせに。 「生きることの反対は、死ぬことじゃない。生きないこと(・・・・・・)だ。俺は、自分の姉ちゃんが死んでからの一年間、一秒も生きちゃいなかった(・・・・・・・・・)。そして、生きないままに死んだ」  絞り出すような声で、伝える。 「君は、確かに生きている(・・・・・)。生きようとしている。それだけじゃなくて、俺のことまで助けてくれた。……だから、胸を張ってほしい。自分は生きようとしている、と」  慰めにもなっていない。事態が好転するわけでもない。そんな無意味な、言葉。  だけど、確かに、伝えた。 「……ありがと」  厘は、ただ、一言だけ答えた。京にとっては、それでじゅうぶんだった。
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