|蒼魔の塔《リボラ・タワー》

1/7
188人が本棚に入れています
本棚に追加
/523ページ

|蒼魔の塔《リボラ・タワー》

『いつか私が死ぬとしたら、病院のベッドで、子供とか孫とかに囲まれて、静かに目を閉じるように死にたいな』  いつだったか、一緒に歩いている時、ちょうど墓地の前を通りかかると、沙耶はうっすらと目を細めてそう言った。  秋の澄んだ空の下で、赤とんぼが滑るように舞う。落ち葉を踏み分けながら、京は沙耶の顔をちらりと見て、 『縁起でもないこと言うなよ、姉ちゃん。……それに、らしくないな。姉ちゃんは、もっと壮絶な死に方がしたいもんだと思ってた』 『えーっ、なにそれ。京の私へのイメージはそんななの?まあ確かに、死ぬまでは誰かのために壮絶に生きたいとは思ってるけどね、死ぬときくらいはゆっくりしたいんだよ、私は』  二人でこうして喋っていると、沙耶はたまに、京にはよく分からないことを言う。 『俺には想像すらできないよ。自分が死ぬことなんか』 『そうかな?私は寝る前によく、死後の世界とかあるのかなーなんて考えたりしてるよ』 『……ないだろ』 『あーっ、また人の考えてることをすぐ否定する!そんなんじゃ高校に行っても友達できないよ!』 『よ、余計なお世話だよ!それに、今の話には関係ないだろ!』  内心ではギクリとしながらも、京は必死に反論した。 『……死後の世界を信じるか信じないかって話でいえば、俺は信じたくない。だって、そんなものがあるとしたら、この世で生きるのに支障がでるじゃないか』 『ーーその心は?』 『もし死後の世界が天国だとしたら、この世で生きるのが馬鹿馬鹿しくなって死にたくなる。もし地獄だったら、この先の人生が地獄行きのカウントダウンになる』 『なるほどねー。京はそう考えるんだ』 『……姉ちゃんはどういう意見なんだよ』 『私? 私はね、京の考えに沿って言うとーーあの世が天国だったら、残りの人生、その天国に負けないくらい幸せな時間を過ごそうと思う。あの世が地獄だったら、その地獄にも耐えられるように、楽しい思い出をこの世で作ってから死のうと思う』  そう言って、笑って見せた姉の顔を見てーー京は、敵わないなと思った。  秋風に吹かれて揺れる、沙耶の長い髪。二人で歩いたあの道。  今はもう、遠い昔のことのようでーー
/523ページ

最初のコメントを投稿しよう!