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「……いないぞ。どこに行った?」
「不可思議なり」
「えものぉ……」
それぞれの武器を持った三人の「府民」が、路地裏で立ち止まる。彼らが狙っていた少年が、突如姿を消したのだ。念入りに周囲を見回すが、前後はおろか、頭上にもその姿は見当たらない。
「おかしいな、確かにここに逃げたはず……」
斧を持った男が、顔をしかめながら踵を返す。
「見間違いの可能性を検討せよ」
「獲物ぉ!のがした!」
他の二人も、不服そうな顔をしながら立ち去っていく。
その足音が遠ざかっていくのを聞いてーー京は、安堵のため息を漏らした。
(あ、危なかった……)
彼が座り込んでいるのは、路地裏に面した建物の屋上だった。屋上とはいっても、その足元は平らではなく、なだらかな斜面が広がっている。念のため、白い魔法陣ーー「定立」を左手に展開して、そこから落ちないようにしながらも、京は緊張を解きほぐすように深呼吸した。
あと少し時間がなければ、今頃は彼らに見つかって、3対1の戦闘になっていただろう。辛うじてそれを避けられたのは、あの狭い路地裏で咄嗟に「反定立」を足に展開させて数メートル跳躍した後、「定立」を使って壁に貼りつき、屋上までよじ登ったからだ。
敵の足音が完全に聞こえなくなると、京は顔を上げ、すぐ近くまで迫った「蒼魔の塔」を見上げる。
この距離から見ると、それはもはや塔ではなく、巨大な柱のように感じられた。満天の星空が広がる天が、この地上に落ちてこないように支える、一本の柱。あまりのスケールの大きさに、距離感が狂いそうになるがーー確かに、京は塔のすぐそばまで来ていた。
あと、少し。
圧倒的な存在感をもって屹立するその塔を、少年は強い瞳で睨んだ。
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