真実を語る者、真実を騙る者

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真実を語る者、真実を騙る者

 奇妙な円柱形の建物が屹立する「冥府」の街並みを抜けると、「蒼魔の塔(リボラ・タワー)」を取り囲むようにして広がる何もない空間に躍り出た。街並みの端から塔まで、直線距離で100メートルはあろうかというその広場を、京はゆっくりと歩きながら進む。  ここまで勢いで来てしまったとはいえ、今の自分ではこの塔に入ることはできない。かといって、ここでおとなしく引き下がる訳にもいかずーーせめて、入口だけでも確認してから帰ろうと京は考えた。  至近距離まで来ると、もはや「壁」と形容しても差し支えないほどの大きさを誇るこの塔の側面は、まるで職人が丹念に磨いたかのように滑らかで、傷ひとつついていなかった。 (ここを目指した「府民」は、今までに大勢いたはずだ。その中には、8000ポイントを持っていないけれど、十六能力(イザヨイ)で強行突破をしようとした人間もいるはず。でも、見るからにこの塔は無傷。ということは、壁面を破壊して中に入ることは無理かな……)  厘の「鮮光(センコウ)」で穴を開けることができれば、あるいはーーとも考えたが、そう簡単に物事は進まないようだ。おとなしく、入口から入るしかないのかもしれない。  塔の周囲をぐるりと回るように数分間歩き続けると、やがて前方にそれらしきものが見えてきた。滑らかな曲線を描く塔の中で唯一、高さ数メートルほどの穴のような窪みが存在するところ。それが目に入った瞬間、京は思わず駆け出していた。  と、その時ーー「入口」の前に、ひとつの人影があることに京は気づく。
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