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ハイツ・デネブ
その時、数十メートル先で倒れ、気絶する「装甲の男」の全身を、淡い光が覆った。
否。男の体そのものが、細かい光の粒となって飛散しているのだ。その様子は、まるで何百匹もの蛍が一斉に飛び立っていくようで。
「あれは……?」
「タイムリミットよ。この世界に来てから3年が経っても、ポイントを集められなかった者はーーああやって死ぬの」
あまりにも静かに進むその現象を眺めながら、厘が一瞬だけ切なそうな顔をしたのを、京は見逃さなかった。
ーー彼女はこの世界に来てから、何度この光景を見たのだろうか。
「……安心して。あなたが殺したんじゃない。心配なら、『府民証』を見ればいいわ。あなたにポイントは入っていないはずよ」
「それは……」
何かを言いかけて、そこで止める。この瞬間に、口に出すべき言葉など、見つかるはずもなかった。
そんな会話をしているうちに、男の体はその全てを光に変えーー跡形もなく、霧散した。
唯一残されたのは、夜の静寂だけ。
「これが、この世界で死ぬということ。……翻せば、この世界で生きることは、多くの死を目の当たりにするということでもある」
厘は、ただ、事実を、現実を告げた。
静かに佇む少年の胸に、言葉にできない感情が渦巻く。
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