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ふわふわと、夢の中を漂う。
まるで、以前に姉の沙耶に「別れ」を告げられた時のように、曖昧な意識の中で、京は確かに声を聞いた。
姉の声ではない。
少しだけしわがれた、中年の男の声。
「……そこの、若いの。飛び降りとは感心しないねぇ、命を粗末に扱うんじゃないよ」
彼は、高い建物の縁に立ち、今まさに飛び降りようとしている京に向かって、そんな言葉を投げかけた。
朦朧とした意識の中、ゆっくりと振り向く。
そこには、ボロボロの白衣に身を包んだ、髭面の中年男性が立っていて。
「君のことは知っているよ、嵐山 京くん。……なんの因果か、僕たちはここで巡りあってしまった」
まるで漫画にでてくる「博士」のような恰好をした中年の男は、自分の髭を丁寧にいじりながら、京に向かってその言葉を投げかけた。
「もしも……君のお姉さんが、まだ生きていると言ったら。それでも君は、飛び降りをしようとするのかい?」
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