大いなるものの胎動

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大いなるものの胎動

 寄せては返す波の音が、京の耳を洗う。仰向けに寝転んだ少年の視界に広がるのは、どこまでも深い群青の星空。その輝きは、彼がこの世界に来る前からずっと存在していてーーきっと、彼がこの世界を去ってからも、そこにあり続けるのだろう。  ガラス玉のような透明な球体が一面に広がる砂浜で、京はもうずっと長い間横たわっていた。彼の友人が死んでから、一週間。何千回と繰りかえす波の音が、もはや彼の日常になっていた。  この感情のことは良く知っていた。喪失感という名前のそれは、姉を失ったときの絶望と似ている。しかし、沙耶が死んだときは、それこそ世界そのものが崩れ去ってしまったような感覚だったのに対し、今のそれは、パズルのピースがひとつだけ足りないような、そんな不安を伴った暗い感情だった。  まだ、厘がいる。八千代も、ガイも。……世界のすべてがなくなってしまった訳ではない。彼らは、先の「イベント」でそれぞれ負傷したものの、まだ、確かに生きている。それは分かっているがーー京は、溢れ出る涙を抑えきれなかった。少年の頬から伝い落ちた雫が、波にさらわれて大海へと消えていく。その一滴は、きっと、遠い水平線の向こうまで運ばれ、人知れず広い海に溶けていくのだろう。  世界は続く。きっと、少年が何を得ても、何を失っても。
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