夜空のテーゼ

大いなるものの胎動

　その意味を京が理解できないでいるままに、彼女はまるで睡魔をこらえるかのような、ぼんやりとした口調で語り続ける。

「たとえ悲劇の結末だとしても、抗うくらいの権利はあなたにも与えられてしかるべき。――そう思ったから、私はここに現れた」
「どういうことだよ……。説明してくれないと分からないじゃないか」
「語るには、あまりにも長すぎる話よ。今は時間がない。――あなたがまだ、沙耶と一緒にこの世界から抜け出し、生き返ることを諦めていないのならば……あの塔に行きなさい。そこに、すべての答えがある」

　そこまで告げて、銀髪の少女は突然にも、京の目の前から姿を消した。瞬きをした間に、その影が跡形もなく消え失せたのだ。

　残されたのは、京と厘のふたりだけ。そして、彼らの頭に響く異様な重低音は、だんだんと激しさを増している。

「京！今の人は……」
「わからない。わからないけど……時間がないことだけは、わかった」

　困惑した表情で尋ねる厘に対し、少年はただ、広大な街の中心部に聳え立つ巨塔を見据える。

「いつか、なんて言ってる場合じゃなかったんだ。俺は今すぐにでも、あの塔に行かなくちゃならない……！」

　まるで沸騰しているかのように熱い右腕を固く握りしめて、京はその塔の頂上、異様な「鼓動」が聞こえてくる場所を睨む。

　そのとき、八千代とガイがこちらに向かってくるのが見えた。おそらくは、この異常事態に対して、二人の様子を見にきたのだろう。

　何もわからないまま、またしても少年は戦いの渦に巻き込まれていく。

　今日こそが、すべての分岐点であるということも知らずに。