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そうこうしているうちに、天へと聳え立つ巨塔――「蒼魔の塔」の足元へと、彼らはたどり着いた。奇妙な円柱形の建物が並ぶ街を抜けた先に、塔を囲むようにして半径100メートルほどの円形の広場が存在する。辺りを見渡すと、京たちと同じように、塔の入り口に向けて走る人影がちらほらと見えた。
「……どうやら、他の『府民』も、この異常事態にいてもたってもいられなくなったみたいだな」
彼らを眺めて、ガイが冷静に分析をする。確かに、普通ならば他の「府民」がいるにも関わらずこんな広い空間に身をさらけ出す人間はいないが、京たちの先を走る彼らは、後ろにいるハイツ・デネブの面々を気にもかけずに、ただ塔の入り口を目指して進んでいる。
彼らに続くように、四人は巨塔の入り口までたどり着く。壁を縦横にくり抜いたような形をしたそれは、まるで巨大な生物が口を開けて獲物を待ち構えているかのように、京の前へと姿を現した。
「――え?」
そこで、京は白いマントの「番人」がそこにいないことに気づく。てっきり、この塔に入るためには彼女と戦わなければならないと思い、身構えていた少年だったがーー辺りには、他の「府民」の姿はあっても、あの無機質で得体の知れない人物の影はちらりとも見えない。
「あー、残念やねえ。今度こそ、リベンジしようと思ってたんやけど」
それに気づいた八千代が、残念そうにため息をつく。以前、文字通り手も足も出せずに敗北したことを、彼女は相当根に持っているようだった。
あの人物がいない、というこの事実に、京は安堵よりもむしろ恐怖を覚えた。あれほど厳格に、この塔に入る人間を「管理」していた彼女が、この場にいないということはーーこの状況が、それほどの異常事態であることを示しているのだ。
得体の知れない悪寒に、京の足が震える。しかし、その寒気とは裏腹に、彼の右腕はいま、中からマグマが溢れてきそうなほどの熱を帯びていた。
――後戻りは、できない。
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