【第一層】夢幻の中に消えるとも

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「やはり、今回の『異変』は、『イベント』のたぐいじゃなさそうだ。……だとしても、この『□□』っていうのは、一体……?」  その時、四人の視界に、なにか動くものが映り込んだ。とっさに身構えた厘とガイが「輝石」を握り潰す。紅蓮の槍が「実体化」すると同時に、長身の青年の姿が消えた。それに続くように、京も熱くなる右手に「反定立(アンチテーゼ)」を展開して構える。  彼らの前で動く「それ」は、まるで大きなダンゴムシのような生物だった。鋼のように固く、光沢を持った体。直径30センチメートルほどの球体状をしたそれは、比較的ゆっくりとした速さで床を転がっている。 「なんだ……?」  それは十六能力(イザヨイ)でもなく、明晰夢(ルシッドメア)でもなかった。無機質な物体であるそれらとは違い、京たちから少し離れたところで転がるそのダンゴムシのようなものは、明らかに「生物」だったのだ。もちろん、そんな大きなダンゴムシなど京は見たことがなかったがーー少なくともそれが、自分で意思をもって動いていることを京は感じ取った。 「京、あれ!」  そこで、厘が大きな声を出して、この円形の空間の中央、その床を指さした。つられるようにしてそちらを見ると、そこには複数の倒れた人影が見える。――間違いない。あれは、京たちよりも先にこの塔に入った別の「府民」だ。みな一様に、気絶してしまったかのようにぴくりとも動かない。肩がかすかに揺れているところを見ると、死んではいないようだが…… 「あのダンゴムシみたいなのは、一体なにをしているんだ?」  何もない空間から、ガイの声が聞こえる。彼の視線もまた、倒れた人間と、その周囲をゴロゴロと転がる生物に釘付けになっていた。その黒光りする生物は、倒れた人影に危害を加えるでもなく、ただ意味もなく転がり続けているように見える。
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