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「いやー、ちょっと買いすぎちゃったかな?荷物持ってもらってごめんね、京」
気がつくと、少年は雑踏の中に佇んでいた。夏の日差しが肌をじりじりと照らす。額に大粒の汗が光る。
「え……」
少年が立っているのは、自分がよく知っている風景の中。家の近くにあった、大型のショッピングモールだ。周囲を行き交う親子連れや老人は、楽しそうに会話をしながら京の横を通り過ぎていく。彼らは色とりどりの品物が並んだショーウィンドウを眺めて、どれを買おうかと吟味していた。
現実味のない蝉の鳴き声が、京の耳の中で反響する。いや、あるいはこれが、これこそが、現実であるとーー
「……っ!」
炎天下であるにも関わらず、京の背筋に悪寒が走る。横を見ると、そこには何よりも焦がれた存在が立っていた。
「姉ちゃん……!」
長い黒髪に、黄緑色のワンピース。間違いない。京の姉――嵐山 沙耶が、そこにいた。
しかし、あれほど待ち望んだ再会であるはずなのに、京の全身から冷たい汗が噴き出す。少年の右手が震え、視界が揺れる。
「ん?どうしたの、京?……もしかして、熱中症!?」
そんな弟の様子を見て、沙耶は心配そうにその顔を覗き込んだ。澄んだ水のような綺麗な瞳が、京の青ざめた表情を写す。
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