夜空のテーゼ

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夜空のテーゼ

 その光景は、神話の一場面のようだった。  罪を重ねた人間たちに、大いなる神が鉄槌を下す。そんなイメージが湧いて出てくるほどに、世界を照らす太陽は恐ろしく、そして絶対だった。  群青に塗り込められた奇妙な建物から、影が消える。かつては決して光の届かなかったような路地裏でさえも、いまは隅々まで見通せるほどに明るい。  それはまるで、「冥府」という街そのものが浄化されていくようで。数々の人間たちの苦しみや孤独を解きほぐすように、ただ真っ白な光が、冷たい世界を照らしていた。  街に潜んでいた「府民」たちは、この異常事態にあって、ただ天に輝く太陽をかざした指の隙間から見ることしかできない。彼らには、それが何であるかは分からなかったがーー少なくとも、これが希望の光ではないことだけは理解できた。  どこまでも続く空は、ただ、白に塗りつぶされていて。  ――星は、見えない。
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