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「生きたい」
自分の意思で、京は答える。
「俺はまだ、姉ちゃんを見つけてない。戦える強さもないし、あの刹那とかいう奴にも勝ってない。……それに」
少年の独白を、四乃は黙って聞く。
彼が思い浮かべたのは、透明な砂粒が輝く砂浜と、どこまでも静かな海。栗色の髪の少女と見た、あの美しい風景。
ーーこの景色を見てると、この世界も悪くないなって思えるの。
生きるか、死ぬかの二択を常に突きつけられるこの世界では、美しさなど、何の価値も持たない。それは分かっている。
だけど、彼女と見たあの景色まで、無意味で無価値であるとーー誰が否定できるだろうか。彼女が心の支えにするあの景色は、必要のないものだと、誰が断定できようか。
だから、京は思った。もっともっと、美しい世界を見よう。死んだ時に後悔しないためではなくーー生きる支えとするために。
「ーーそれに、まだまだ、厘と一緒に綺麗な景色をみたいからな」
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