白鳥と刹那の分岐点

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白鳥と刹那の分岐点

 目覚めた京が最初に見たのは、心配そうに自分を覗き込む厘の顔だった。  天井に取り付けられた簡素な照明と重なり、逆光の中に見えるその表情が、不安から安堵に変わると同時にーー京はようやく自分が置かれた状況を理解した。  ハイツ・デネブの一階にある、大部屋。かつて京が他のメンバーと「顔合わせ」をした場所だ。その中央に置かれた、大きな青いテーブルの上に、自分は寝かされている。周囲を見回すと、厘、サン、八千代、ガイの姿が見えた。だが、以前は奥のほうにあるガラスのようなテーブルに突っ伏したまま寝ていた少女――大久保四乃だけは、どこにもその姿が確認できない。 「八千代さん、京が起きましたよ!」  歓喜とも言えるトーンで、厘が車椅子の女性へと語りかける。そこまで大袈裟に言われると、こちらも恥ずかしくなってくるというものだ。  ーー否、大袈裟ではないのかもしれない。なにせ、自分は腕を斬られたのだから。そこからの「出血」で、死んでもおかしくなかったのだ。
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