白鳥と刹那の分岐点

2/9
前へ
/523ページ
次へ
「……あ」  はっとして、京は自身の右腕を見た。すると、そこには明るい夜空のような青に輝く、明晰夢(ルシッドメア)のような「腕」が存在していて。頭の奥、脳の片隅で、小さな火花のようなものが散った感触がした。  先程まで自分が見ていた「夢」の中で出会った人物。あれは、確かーー 「京、大丈夫!?その右腕ーー」  落ち着かない様子で部屋を駆け回る厘に対し、軽く苦笑いをしながらも、京が答える。   「ああ。大丈夫かどうかは、分からないけど……とりあえず、血は止まったみたいだ。この腕のことは、俺にもわからない。……それより、俺が気絶した後、どうなったんだ?そもそも、あの刹那って人は、何者なんだ?」  冷たい右腕の感触を確かめ、それが本来の腕や手のように動くことに驚きながらも、京は厘に尋ねた。 「京の『反定立(アンチテーゼ)』が当たった後、すぐに八千代さんたちが来てーー刹那さんは、退いていったわ。八千代さんと、あそこで戦うつもりはなかったみたい。……刹那さんは、昔、ハイツ・デネブにいた人でーー」 「厘ちゃん。その先は、うちが説明するわ」  割って入ってきたのは、車椅子に座る女性ーー八千代だった。穏やかな普段の彼女とは違い、真剣味を増した様子で、八千代は京に向けて説明を始める。 「石田 刹那。刀の十六能力(イザヨイ)、『霧立(キリタチ)』の使い手」  しかし、その表情は、怒りよりも悲しみに満ちていて。 「……うちとあいつは、お互い『冥府』に来たばっかりの時に出会って、一緒に行動するようになった」  遠くに過ぎ去った、思い出を語るようにーー八千代は、言葉を紡ぐ。
/523ページ

最初のコメントを投稿しよう!

188人が本棚に入れています
本棚に追加