白鳥と刹那の分岐点

7/9
188人が本棚に入れています
本棚に追加
/523ページ
 再び場を埋め尽くす、長い沈黙。  厘に、そしてハイツ・デネブの面々に自分は何と言うべきか、京には分からなかった。  だから、彼らにかける言葉を紡ぐためではなくーー自分の気持ちを伝えるために、口を開く。 「事情は、だいたい掴めました。俺が下手に口出しするべきじゃないってことも。……でも」  ハイツ・デネブの住人たちを真っ直ぐに見据え、一つの決意を形にする。 「俺は、あの刹那って人にもう一度会わなくちゃならない。あいつは、姉ちゃんのことを知っていた。簡単にはいかないかもしれないけど……力づくでも、俺はあいつから姉ちゃんのことを聞き出してみせる」  その言葉に、八千代を含めたその場の全員が驚いた表情を見せた。ガイに至っては、顔を真っ青にして、信じられないものを見るような目で京を見ている。 「な、なぁ、嵐山くん……」  まるで目の前に迫った猛獣へと語りかけるような調子で、彼は恐る恐る問いかけた。 「き、きみは、自分が腕を斬られたことを忘れたのか……?刹那に……あいつに対して、恐怖心とかはないのか?」 「ありませんよ」  きっぱりとした口調で、少年は断言する。 「姉ちゃんを見つけるためには、これくらいでビビってちゃ駄目なんです。俺は、もうすでに命までも賭けました。腕の一本で怯む訳にはいきませんよ」  その言葉には、虚勢など微塵も含まれてはいなかった。狂気に近い覚悟が、ただ、少年を動かす。 「ーーはは、ええ感じに狂っとるね、きみも(・・・)」  八千代は驚きから一転、感心へとその態度を変えて、京を見据えた。 「その、異常なまでのお姉さんへの執着。うちが見てきた人間の中で、間違いなくダントツで、きみがナンバーワンのシスコンや」 「……それって、褒めてるんですか」 「褒めてはないよ。ただ、うちは好きやで。理屈や常識を超えた愛情。他人に理解されなくても、是非ともそれは貫いて欲しいわ」  そう告げて、八千代は快活に笑った。京が、その意味を理解できないままに、彼女は続いて言葉を紡ぐ。
/523ページ

最初のコメントを投稿しよう!