白鳥と刹那の分岐点

8/9
188人が本棚に入れています
本棚に追加
/523ページ
「きみが倒れてる間に、話し合ってん。うちらが、刹那に対してどうするべきか」  八千代は、その場の全員を見回し、確認をとるように告げる。 「うちは、個人的には今すぐにでもぶっ飛ばしに行きたいって言ったんやけどな。ガイくんやサンくん、そして厘ちゃんは、あいつとーー刹那と、話し合うべきやって言ってるねん。あいつがなんで仲間を殺して出ていったのか、うちらは知らんままやからな」  八千代の言葉に、京は少しだけ驚いた。彼らには、「裏切り者」であり危険人物であるはずの刹那に対して、関わり合いを避けるという選択肢がなかったのだ。  長身の青年・ガイは、彼女の言葉を真剣な眼差しで首肯する。それは、普段の臆病そうな彼の姿からは想像もつかないほど、強い意志にあふれていて。 「あんなに優しくて、正しい強さを持っていたあいつが、どうして変わってしまったのかを……俺たちは、知らなくちゃいけないだろう。もちろん、怖くないと言えば嘘になる。だが……これは、逃げてちゃ解決しない問題だからな」  そして、黒ずくめの少年・サンも、ガイに続くように口を開いた。 「ある日突然人格が変わって殺人鬼になるとか、中二病は名前だけにしとけよって話だぜ。選ばれし者であるこの俺が、そんな刹那さんの目を覚まさせてやるーー」  そこまで喋ったところで、彼は厘に頭を小突かれ、不服そうに彼女を睨んだ。 「なんだ、これからいかにして俺が選ばれし者かを語ろうとした時に」 「はいはい、君はもっと現実を見なさい」  言葉では冷たくあしらいながらも、彼女の顔にはどこか安堵したような笑みが浮かんでいた。  厘はきっと、他のハイツ・デネブの面々が、刹那という青年に対して憎しみや怒りといった感情を抱いていないことに安心しているのだろう。彼女にとって、彼は兄のような存在であったというからーー彼の裏切りを受けても、まだそれが飲み込めていないのだ。それは厘が彼と再会したときの様子からも良くわかる。  しかし、京から見て、今の刹那という青年は、飄々とした外見の内に、冷たい殺意を隠し持ったような人物だった。とても人格者としての面影はない。  それは、厘を含めて、ガイやサンも心の中ではわかっているのだろう。だが、わかっていてもなお、彼と向き合い、対話するという道を選ぼうとしているのだ。
/523ページ

最初のコメントを投稿しよう!