夜空の都

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夜空の都

 星が(またた)いた。  朦朧(もうろう)とする意識の中で、嵐山(あらしやま) (けい)は目を覚ます。最初に目に入ったのは、はるか彼方まで広がる、群青(ぐんじょう)色の夜空だった。宝石を散りばめたかのように天にひしめく星が、静かに京を照らしている。 「俺、は……」  横になっていた体勢から、ゆっくりと起き上がる。何故かはわからなかったが、体が重く、思考が回らない。それでも京は、自身が置かれた状況を確かめるように、周囲に広がる街並みを見渡す。  そこは、あまりにも異様な場所だった。  現代日本ではあり得ないような雰囲気の、建築物の群れ。すべてがコバルトブルーに染まったそれらの建物は、奇妙な曲線を描きながら天へと伸びている。一つ一つの大きさはまちまちで、二階建てほどの高さのものがあるかと思えば、その向こうには五階建てほどもある大きなビルのような建物が顔を覗かせる。  そして、ひときわ目を引くのは、広がる街並みの中心部にそびえ立つ巨大な塔であった。京はかつて東京にあるスカイツリーを見たことがあったが、それよりも明らかに高い。目測で800メートルほどはあろうかというその塔は、天を穿(うが)つほどの迫力で、少年の目に焼きついた。 「……なんだ、ここ?」  頭に浮かんだ疑問をそのまま口に出してみたが、応える者はない。静まりかえった街並みの中には、京のほかに動くものなどなにもなかった。その光景は、あまりにも無機質だった。そう、まるで――  すべてのものが、死んでしまった(・・・・・・・)かのように。 「――っ⁉」  瞬間、京の頭が、焼けるような痛みに襲われる。思わず頭を抱えてうずくまる少年の脳裏に、まるで映像を再生したかのような「記憶」が、蓋を破ってあふれ出した。  暑い夏の日。買い物袋。隣を歩く少女。伸ばした手。冷たい血だまり。陰鬱な日々。屋上の手すり。 「…………そうか」  しばらくの後、ようやく痛みがおさまってきた頃、京はゆっくりと顔を上げた。  そうして、誰に向けてでもなく、震える声を絞り出す。 「――俺は(・・)死んだんだな(・・・・・・)」  少年の声が、静まり返った奇妙な街並みの中に、溶けるようにして消えていった。
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