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「十六能力は、この世界に来た人は誰でも持ってる力。もちろん、規模や形に個人差はあるけどね」
「俺にも……あるのか?」
「もちろん。たぶん、ポケットに『輝石』が入ってると思うよ。……あ、『輝石』っていうのは、この宝石みたいなやつのことでね。これもまた、『鬼籍』とかけられたダジャレみたいなんだけど……」
そう言われ、京はポケットを探る。
しかし、それらしいものは入っていなかった。今の彼の持ち物は、死んだときに着ていた服と、「府民証」のみ。
「あれ、おかしいなぁ。……もしかして、さっき走ってる間に落とした、とか?急いで探さないと!」
「それって、やばいのか?」
「やばいよ!あれがないと、十六能力を使えない。つまり、明晰夢に対抗する手段がないのと一緒よ!」
厘は、慌てた様子で京に「府民証」の操作を促した。言われた通りにパネルをタッチしていくと、表示されたのは以下のような文字列だった。
「No.936 嵐山 京 十六能力名 『定立』」
「『定立』……」
ぽつりと、京はその名前をつぶやく。
まだ生きていたとき、いつか受けた授業で、聞いたことがある単語だ。どこかの哲学者がその論証の中で使っていた用語。たしか、意味は「正しいとされる主張・命題」。正直、京にはその言葉が示すものなどほとんど理解できなかった。
これは、どうすれば発動するのか。厘と同じように、「輝石」を握りつぶせばいいのだろうか。
「これが、あなたの十六能力ね。今すぐ、『輝石』を探しに行くわよ!」
厘が急いで裏路地から出ようとする。
ーーその時。
「……なぁ」
京は、急ぐ彼女の背中に向けて言葉を投げた。
「これが……俺の十六能力か?」
静かに問うた少年の掌の上にはーー純白に輝く、魔方陣のような円が浮かんでいた。
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