|蒼魔の塔《リボラ・タワー》

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*  天井に向けて無意識のうちに伸ばしていた自分の手が、京の視界に入った。冷たい青に染まった、明晰夢(ルシッドメア)のような右腕。ここが死後の世界たる象徴。  一体、自分はいつから呆けていたのだろうか。日が昇ることのない「冥府」では、すぐには時間の経過がわからない。本当は数時間しか横になっていなかったはずなのに、もう何日も経ってしまったように感じる。  眠りこけていた訳ではない。この世界では、眠ることはできないしーーこんな状況で、呑気に眠っていられるはずもない。ただ、昨日の激しい闘いによる気疲れから、少しの間、惚けてしまっていたのだ。  ーー結局、あの戦いの後、倒壊したハイツ・デネブにはもう住めないということで、その隣にある同じような建物に移り住むことになった。奇妙な円柱形と、青い部屋。その特徴はハイツ・デネブと似通っていたが、それでも、以前とは違うその光景に、どこか寂しさを感じてしまう。……ほんの数日しか住んでいなかった京ですらそう感じるのだから、他の面々はもっと複雑な感情を抱いているだろう。  とはいっても、そんなことを感じている余裕は、彼らにはないのかもしれない。ガイやサン、そして厘は瓦礫に挟まれた傷によって療養中。八千代は傷こそ浅かったものの、車椅子のほうが壊れて、現在は自由に動くことができない。そして、大久保 四乃はーー奇妙なことに、誰一人としてその存在を覚えていなかったのだ。まるで最初から、彼女がいなかったように。まるで彼女が、白昼夢であったかのように。  確かに、京が彼女の姿を見たのは、「顔合わせ」の際の一度きり(・・・・)だったがーーあれが、夢であったとは思えない。彼女は間違いなくそこにいたし、他の面々も彼女のことをよく知っているような口ぶりだった。それが、皆の記憶から消え、さらには姿までも消したとなると、いよいよ訳が分からなくなってくる。
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