灰かぶり姫は巨人と踊る

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「なるほどなぁ」  最初に口を開いたのは、八千代だった。彼女はなぜか、 笑いをこらえるような仕草をして、京のほうをちらりと見る。 「うちは前に、京くんのことを『自分が見てきた中でナンバーワンのシスコンや』って言ったけど、訂正するわ。ーーあんたは、間違いなく宇宙一のシスコンやで」  本当に楽しそうな表情を浮かべる八千代を尻目に、今度は厘が何かを納得したような調子で京に語りかける。 「京がどうして病弱そうな感じなのか、ずっと気になってたけど……そういう事情があったからなのね。思ったより壮絶な理由だったけど」 「ああ。いい加減、目の下のクマとか治ってほしいんだけどな……」  そう言いつつ、自分の顔を右手でさする。予想外に冷たい感触を顔に感じて、思わず右手を見ると、そこには生身のものではなく、青い宝石のような指があった。いまだに慣れない感触に戸惑いながらも、京は自分が今、あれほどの思いをして目指した「冥府」にいるという事実を再認識する。 「……そうだ、京。お前が十五歳だというなら、俺からひとつ言っておかないといけないことがある」 「なんだよ、サン。改まって」  黒づくめの少年が、どこか真剣な眼差しで京に語りかける。いつになく真面目な雰囲気の彼に、少したじろぎながらも、京は少年の目を見返した。  そして、彼はたっぷり十秒も「溜め」を作ってから、黒縁のメガネを光らせて語る。 「ーー俺はお前より年上だから、これからは敬語を使え」 「やっぱりそんなことだと思ったよ!」  思わず語気を荒げながら叫んだ京を見て、満足そうに軽薄な笑みを浮かべながら、サンはそのまま踊るように部屋を出ていった。
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