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そんな日々が終わったのは、姉が死んだ一年後のことだった。
夢を、見たのだ。
夢の中で、沙耶が困ったような顔をして佇んでいた。……姉の夢を見るのは、なにもこれが初めてではない。いつも、夢の中の姉は暗い表情をしている。何度呼びかけても、姉は自分がここにいると認識できないのだ。
今日もまた、姉には自分の声が届かないのだろう。
そう思っていた、矢先。
「……京」
澄んだ鈴のような、声。
少年は目を見開いた。
「ごめんね、お姉ちゃんはもう……あなたには会えないかもしれない」
悲しそうに、けれど必死で笑顔を作ろうとしているかのように、沙耶は弟へと語りかける。
「がんばったけど……駄目だったよ。ここでおしまい。だから、今度こそ本当に、さよなら」
がんばった?今度こそ?
京は姉の言葉が理解できずに、ただ彼女を見つめる。
「何言ってるんだよ、姉ちゃん。それって、どういう……」
「今までありがとうね、京。最後に、あなたに私からのメッセージ。
……ひとつ、人と関わるのを恐れずに、いろんな人に歩みよりなさい。
……ふたつ、誰かを拒絶できる強さを持ちなさい」
姉の輪郭が、少しずつぼやけていく。霧のように。幻のように。
「なんだよ、それ。矛盾してるじゃないか」
少し笑いながら、京は答えた。
寂しさは、なかった。
これは夢だ。だから、矛盾してたっていい。……寂しさを、感じなくたっていい。
手を、伸ばす。姉に届くように。
「こっちこそ、ありがとな、姉ちゃん」
その手が虚空を掴んだ瞬間、京は優しいまどろみから覚めた。
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