大いなるものの胎動

2/11
188人が本棚に入れています
本棚に追加
/523ページ
「――まだそうしてたの?」  その時、少年の頭上から、ひとりの少女の声が聞こえてきた。視界に映るのは、栗色の長い髪。彼女は上から京の顔を覗き込みながら、どこか優しい、けれど悲しい笑みを作った。 「……変わらないね、この場所も」  二人で海を眺めながら、厘がそんなことをつぶやく。その言葉に、京はなにも気の利いた返しができなかった。  京にだってよく分かっている。自分がサンを失って強い喪失感に苦しんでいるのと同じように、厘もまた、仲間を失って平気なはずがないのだ。それなのに、京を気遣って、あえて沈んだ様子を見せない彼女の優しさと強さに、京はいくらか救われ、いくらか自責の念を覚えた。  そして、少年は彼女のほうを向いて、強く、強く語る。 「――俺は、決めたよ。この殺し合いの『運営』を、倒す。なによりも強く『拒絶』する。こんなシステムを作って、人間を殺し合わせるような連中を……俺は、絶対に許さない」  それは、冷たい決意だった。ある意味で、嵐山 京という少年は、このとき始めて、「誰かを拒絶できる強さ」を得たのかもしれない。 「京……」  彼の横顔に、厘は憂いたような表情を見せる。 「あなたが、サンを失って辛いことは良く分かるわ。……だけど、『運営』は、頑なに私たち『府民』の前に姿を現そうとはしないじゃない。一体どうやって、それを倒すっていうの?」  その問いかけに、少年は海とは反対方向、「冥府」の街の中心部を見据えた。
/523ページ

最初のコメントを投稿しよう!