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「おぬしらが、『紅魔』と戦う必要はない」
岩陰の向こうから声が聞こえ、ひとりの大きな人間が姿を現した。
嵯峨野 善十郎。
この塔の「番人」であり、十六能力「大太郎法師」の使い手。初めて会ったときには京を圧倒し、その後は八千代と二人がかりでなんとか倒すことができた相手である。
彼の足元には、錆びた赤い鉄のような装甲を持った、アルマジロのような生物が横たわっていた。まだ息はあるようだが、気絶しているのか、ぴくりとも動かない。黒衣の坊主はその生物を一瞥したあと、静かに、京たちに向けて言葉を投げる。
「……こやつは、わしが倒しておいた。べつに、おぬしらに味方するわけではないがーーゆっくり話すためには、邪魔だと思ったのでな」
彼はそう言うなり、その場にどかりと腰を下ろした。彼の態度から見て、戦う気がないのは明らかである。
「なんや、てっきりこの塔に入ったことを怒られるかと思ったんやけど」
「まあ、入ってしまったのは仕方ないことだろう。……だから、わしは時間稼ぎをしようと思ってな。まあ、ゆっくり語ろうじゃないか」
八千代のからかうような言葉をうまくかわして、坊主は告げる。
しかし、京は彼に食いつくような姿勢で反論した。
「なんの目的で邪魔するのかは分からないですけど、時間稼ぎって言われて素直に応じるほど俺たちは暇じゃないんです。……俺は、姉ちゃんのところに行かなくちゃならない」
「だから、おぬしらを沙耶のところに行かせないのが、わしの狙いなのだ」
厳然とした態度で、黒衣の坊主は語る。彼は地面に胡坐をかいて座り、能力も使用していないにも関わらず、まるで動かせない大岩のように京たちの前に立ちはだかっていた。
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